【相続】遺言によっても自由に処分できない「遺留分」とは 22017年02月11日 17:27

1.遺留分額算定のための基礎(前提)となる財産とは?

 『遺言によっても自由に処分できない「遺留分」とは 1』では,遺留分,遺留分権利者,そして遺留分の割合について述べました。
では,遺留分額を算定する際の「財産」とは,被相続人(お亡くなりになった人)のどの財産を指すのでしょうか?

民法1029条を見てみましょう。

(遺留分の算定)
第千二十九条  遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。

したがって,遺留分算定の基礎となる財産の額は,①被相続人が相続開始時(死亡時)に持っていた財産の価額に,②被相続人が贈与をした財産の価額を加え,③そこから被相続人の債務(借金などです)を控除した金額となります。

すなわち,①+②-③となります。

2.誰に対するいつの贈与でも遺留分算定のための基礎財産に含まれるのか?

 では,平成29年に発生した相続について,例えば,昭和60年に被相続人から100万円を贈与された(もらった)友人がいた場合,この100万円も加算されてしまうのでしょうか?

再び民法を見てみましょう。

第千三十条  贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。

このように,民法は,過去の贈与のすべてを対象とはしません。
その理由ですが,生存中は,被相続人の方が誰に何を贈与しようと本来自由なはずです。それなのに,死亡によって,過去の贈与をすべて蒸し返されるというのでは,贈与された人間(先ほどの例で言えば昭和60年に100万円をもらった友人)は,あまりに不安定な立場に立たされてしまいます。そこで,こうした不利益を防止するため,「相続開始前の一年間」になされた贈与に限定しています。

ただし,民法1030条第1項後段には,「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。」といった規定があります。

ここで,「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って」とは,被相続人及び受贈者(贈与を受けた人)両名が,当該贈与によって遺留分を侵害する認識があればよいとされています。もっとも,被相続人の方が生きている限り,その方の財産関係は常に変動します。ですから,贈与当時は遺留分を侵害する価額であったとしても,その後,被相続人の財産が増加し侵害しなくなることもあり得ます。

そのため,一般には,この遺留分を侵害する認識を立証することは難しいとされています。なお,実際の裁判では,贈与者が贈与時高齢であった,健康状態が悪くご本人の活動力に欠けていた,贈与から死亡までの期間が短いなどの事情は,遺留分を侵害する認識を肯定する方向の事情として斟酌される傾向にあります。

3.相続人が受贈者であっても同じなのか?

これに対し,共同相続人中に,被相続人から,遺贈を受け,または婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた場合(特別受益(民法903条第1項)がある場合)も,相続開始前一年間になされた贈与に限られてしまうのでしょうか?

この点については,民法に規定はありません。
しかしながら,最高裁判所は,特別受益については,相続開始一年間の贈与であるか否かを問わず,また,遺留分を侵害する認識の有無を問わず,すべて遺留分算定のための基礎財産に加算さると判断しました(最三小判平成10年3月24日(民集52巻2号433頁))。

ですから,受贈者が相続人の場合には,遠い過去の贈与であっても加算されますので,ご注意下さい。

3.贈与以外ではなく,極端に安い値段で買った場合にはどうなるか?

 贈与ではなく,極端に安い値段で,例えば,被相続人が友人に1000万円の土地を10万円で売ってしまったような場合はどうでしょうか?
この場合も,民法は,被相続人及び買主両名が,当該売買によって遺留分を侵害する認識がある場合に限り,遺留分算定のための基礎財産に加算されるとしています。

 (不相当な対価による有償行為)
第千三十九条  不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、これを贈与とみなす。この場合において、遺留分権利者がその減殺を請求するときは、その対価を償還しなければならない。