【相続】身近になった自筆の遺言書2021年02月10日 10:48

 令和2年(2020年)7月より、自筆の遺言書(正確には「自筆証書遺言」といいます。)の作成方法、保管場所、家庭裁判所での手続きなどが、より身近なものへと大きく変わりました。
 
 1.自筆の遺言書の作成方法

 従来、自筆で遺言書を作成する場合には、全ての文章(全文)、日付及び氏名を遺言をする方が自署する必要がありました。

 今回、改正された内容では、平成31年(2019年)1月13日以後に作成された自筆の遺言書の「財産目録」については、自筆公正証書と一体のものとして添付されている場合、パソコンなどで作成した「財産目録」でもよいとされました(民法968条2項)。

 もっとも、「この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。」とされていますので、印刷した「財産目録」への署名・押印は必要になりますので注意が必要です。
 
 また、このように手書きが原則であって、ワープロを使うことができるのは財産目録だけという点にも注意が必要です。

2.保管場所

 今まで自筆の遺言書については、登録システムのようなものは存在しませんでしたので、遺言をされた方がどこにあるなど言い残していなければ、相続人の方々は家捜しするほかありませんでした。

 こうした不都合を改めるため、平成30年法律第72号による民法改正で、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が新たに創設されました。
 
 この制度は、遺言者が法務局に自筆の遺言書の原本を持参し、手数料を支払って申請すれば、法務局で遺言書の原本とともに、遺言書を画像情報化して保存してくれるというものです。

 また、保管は法務局の遺言書保管官が行うことになっているため、あくまで事実上ではありますが、遺言書の形式についてはある程度、この段階でチェックしてもらえるでしょうから、形式的不備を防ぐことが期待されると思われます。
 
 なお、この制度の詳しい内容につきましては、法務局の案内をご参照ください。

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html

3.遺言書の検認
 
 自筆での遺言書については、保管者、あるいは発見した人が家庭裁判所に検認に申立をしなければならないとされており、手間暇ともに掛かるのが実情でした。

 民法 第千四条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。

 そこで、この点についても改正がなされ、法務局で保管された自筆の遺言書については、家庭裁判所の検認は不要とされました。

 なお、家庭裁判所の検認とは、遺言の有効、無効を判断するものではありません。
 
 あくまで相続人に対し、残された遺言書の状態を確認させるための手続きです。

 しかし、民法上、遺言の保管者、あるいは発見した相続人については、検認をすることが義務づけられており、これを怠った場合には、以下のとおり5万円以下の過料に処されるとされているので注意が必要です。

(過料)
第千五条 前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。

4.その後~相続が発生したら

 相続が発生した後には、不動産の登記や預貯金の名義書換などのために「遺言書情報証明書」の交付要求を相続人の方が行うことになります(注:義務ではありません)。

 なお、「遺言書情報証明書」の交付要求、あるいは遺言書の閲覧請求を受けた法務局は速やかに遺言書を保管していることを遺言者の他の相続人、受遺者(財産を遺贈するとされた方)、遺言執行者に通知することになっているようです。

【相続】遺言によっても自由に処分できない「遺留分」とは 22017年02月11日 17:27

1.遺留分額算定のための基礎(前提)となる財産とは?

 『遺言によっても自由に処分できない「遺留分」とは 1』では,遺留分,遺留分権利者,そして遺留分の割合について述べました。
では,遺留分額を算定する際の「財産」とは,被相続人(お亡くなりになった人)のどの財産を指すのでしょうか?

民法1029条を見てみましょう。

(遺留分の算定)
第千二十九条  遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。

したがって,遺留分算定の基礎となる財産の額は,①被相続人が相続開始時(死亡時)に持っていた財産の価額に,②被相続人が贈与をした財産の価額を加え,③そこから被相続人の債務(借金などです)を控除した金額となります。

すなわち,①+②-③となります。

2.誰に対するいつの贈与でも遺留分算定のための基礎財産に含まれるのか?

 では,平成29年に発生した相続について,例えば,昭和60年に被相続人から100万円を贈与された(もらった)友人がいた場合,この100万円も加算されてしまうのでしょうか?

再び民法を見てみましょう。

第千三十条  贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。

このように,民法は,過去の贈与のすべてを対象とはしません。
その理由ですが,生存中は,被相続人の方が誰に何を贈与しようと本来自由なはずです。それなのに,死亡によって,過去の贈与をすべて蒸し返されるというのでは,贈与された人間(先ほどの例で言えば昭和60年に100万円をもらった友人)は,あまりに不安定な立場に立たされてしまいます。そこで,こうした不利益を防止するため,「相続開始前の一年間」になされた贈与に限定しています。

ただし,民法1030条第1項後段には,「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。」といった規定があります。

ここで,「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って」とは,被相続人及び受贈者(贈与を受けた人)両名が,当該贈与によって遺留分を侵害する認識があればよいとされています。もっとも,被相続人の方が生きている限り,その方の財産関係は常に変動します。ですから,贈与当時は遺留分を侵害する価額であったとしても,その後,被相続人の財産が増加し侵害しなくなることもあり得ます。

そのため,一般には,この遺留分を侵害する認識を立証することは難しいとされています。なお,実際の裁判では,贈与者が贈与時高齢であった,健康状態が悪くご本人の活動力に欠けていた,贈与から死亡までの期間が短いなどの事情は,遺留分を侵害する認識を肯定する方向の事情として斟酌される傾向にあります。

3.相続人が受贈者であっても同じなのか?

これに対し,共同相続人中に,被相続人から,遺贈を受け,または婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた場合(特別受益(民法903条第1項)がある場合)も,相続開始前一年間になされた贈与に限られてしまうのでしょうか?

この点については,民法に規定はありません。
しかしながら,最高裁判所は,特別受益については,相続開始一年間の贈与であるか否かを問わず,また,遺留分を侵害する認識の有無を問わず,すべて遺留分算定のための基礎財産に加算さると判断しました(最三小判平成10年3月24日(民集52巻2号433頁))。

ですから,受贈者が相続人の場合には,遠い過去の贈与であっても加算されますので,ご注意下さい。

3.贈与以外ではなく,極端に安い値段で買った場合にはどうなるか?

 贈与ではなく,極端に安い値段で,例えば,被相続人が友人に1000万円の土地を10万円で売ってしまったような場合はどうでしょうか?
この場合も,民法は,被相続人及び買主両名が,当該売買によって遺留分を侵害する認識がある場合に限り,遺留分算定のための基礎財産に加算されるとしています。

 (不相当な対価による有償行為)
第千三十九条  不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、これを贈与とみなす。この場合において、遺留分権利者がその減殺を請求するときは、その対価を償還しなければならない。

【相続】遺言によっても自由に処分できない「遺留分」とは 12016年10月20日 08:53

1.「遺留分」とは

近年、『終活』の広まりにより、生前に遺言を作成しておきましょうという動きが活発になってきています。

遺言では、例えば、1人の相続人にすべての財産を相続させることを内容とした遺言であっても、遺言作成のルール(形式的要件)を遵守していれば有効なものとなります。つまり、例えば、父親が長男にだけ全財産を相続させるという遺言を残すことも可能です。

しかし、長男のみが父親の全財産を相続し、他の次男や三男は何も相続しない(できない)という結論は、次男や三男が相続人の欠格事由(民法891条各号)などにより相続人となることができない場合は別として、妥当でしょうか?

そこで、法は、相続制度は、残された遺族の生活保障、被相続人(お亡くなりになった人)の遺産形成に相続人が貢献した部分もあるとの考えなどから、「遺留分」(民法1028条以下)という権利を、一定範囲の相続人に限り、保障しています。

なお、「遺留分」は権利であり、その権利(遺留分減殺請求権)を行使するか否かは遺留分権利者の自由です。ただし、遺留分減殺請求権には期間制限がありますので注意が必要です(民法1042条)。

(減殺請求権の期間の制限)
第千四十二条  減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

2.「遺留分」権利者とは

では、「遺留分」権利者とは誰か?
民法1028条をご覧下さい。

(遺留分の帰属及びその割合)
第千二十八条  兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一  直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二  前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

少し分かりにくいかもしれませんが、被相続人(お亡くなりになった人)の配偶者、子、直系尊属、子が先に亡くなった場合には子の代襲相続人(例:被相続人の孫)が遺留分権利者であると定めた条文です。これに対し、兄弟姉妹は遺留分権利者ではありません。

ですから、例えば『サザエさん』において、仮に波平さんが亡くなり、全ての財産をますおさんに遺贈するという遺言を作っていたとしても、配偶者であるフネさん、子であるサザエさん、カツオくん、ワカメちゃんは遺留分を主張することができます。
これに対し、波平さんもフネさんも亡くなり、カツオくんが不慮の死を遂げ、全ての財産をますおさんに遺贈するという遺言を作っていた場合、相続人は兄弟であるサザエさんとワカメちゃんになりますが、兄弟には遺留分は認められないため、二人は遺留分を主張することはできません。

3.遺留分の割合

それでは、「遺留分」の割合とはどの程度なのでしょうか?

前述の民法1028条では、遺留分の割合も定めています。

第千二十八条  兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一  直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二  前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

したがって、先ほどの『サザエさん』の例で波平さんが亡くなったケースの場合では、個別的遺留分の割合は、フネさん:遺留分2分の1×法定相続分2分の1=4分の1、サザエさん・カツオくん・ワカメちゃん:遺留分2分の1×法定相続分6分の1=12分の1ずつ、となります。

・・・以下、遺言によっても自由に処分できない「遺留分」とは 2 へつづく