【交通事故】 親族への名義貸し2023年12月27日 15:19

【気になる交通事故裁判 1】

 生活保護受給中の親族(「Aさん」といいます)に頼まれ、自動車の名義を貸した方(「Bさん」といいます)がいました。
 BさんがAさんに名義を貸してから2年後、Aさんが人身事故(交通事故)を起こしてしまいました。
 事故当時、AさんとBさんとの間は疎遠で、住まいも生活も別、Bさんは事故を起こした車がどこに保管されているのかも知りませんし、勿論、車の購入代金も車検代などの維持費も支払っていませんでした。
 この状況において、名義を貸したBさんは、人身事故について賠償義務を負うのでしょうか?

 自動車損害賠償保障法(「自賠法」といいます)3条では、以下のとおり定められており、この事件では、Bさんが「自己のために自動車を運行の用に供する者」(「運行供用者」といいます)に当たるのかが問題となりました。

(自動車損害賠償責任)
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。

 この事件は、最高裁まで争われ、1審では「Bさんは運行供用者にあたり責任を負う」と判断されました。
 これに対し、第2審(高等裁判所)では、「Bさんは単なる名義貸与者にすぎず、自動車の運行を事実上支配、管理していたと認めることはできないとして、運行供用者にあたらず責任を負わない」と判断しました。

 これを受け、最高裁は、以下の通り判断し、Bさんが運行供用者にあたらないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして原判決を破棄し、損害についてさらに審理を尽くさせるため、原審に差し戻しました。

『Bは、Aからの名義貸与の依頼を承諾して、本件自動車の名義上の所有者兼使用者となり、Aは、上記の承諾の下で所有していた本件自動車を運転して、本件事故を起こしたものである。Aは、当時、生活保護を受けており、事故の名義で本件自動車を所有すると生活保護を受けることができなくなるおそれがあると考え、本件自動車を購入するに際し、親族(※具体的な属性は割愛します)であるBに名義貸与を依頼したというのであり、BのAに対する名義貸与は、事実上困難であったAによる本件自動車の所有及び使用を可能にし、自動車の運転に伴う危険の発生に寄与するものといえる。また、BがAの依頼を拒むことができなかったなどの事情もうかがわれない。そうすると、・・・(略)BとAとが住居及び生計を別にしていたなどの事情があったとしても、Bは本件自動車の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にあったというべきである。したがって、Bは、本件自動車の運行について、運行供用者に当たる』

 以上のように、最高裁は、名義を貸しただけのBさんにも人身事故の賠償義務を認めました。
 生活保護を受給されている方の中には、今回のAさんと同様の手法で自動車を使用されている方がいるかもしれません。
 しかし、今回のように、安易な名義貸しで莫大な損害賠償義務を負わされるBさんのようなケースもありますので、安易な名義貸しは絶対に止めましょう。