【離婚】養育費を確保するために③ ~調停が成立したその後に~2023年06月09日 14:55

【離婚】養育費を確保するために③ ~調停が成立したその後に~

 令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告(厚生労働省)によりますと、離婚時に養育費の取り決めをした母子世帯の割合は46.7%であるのに対し、離婚した父親からの養育費の受給状況として「現在も受けている」のは28.1%にとどまるとされています。

 この調査結果からは、そもそも離婚時に養育費の取り決めがされている母子家庭の割合は半数未満と低い上、せっかく取り決めをしても養育費を支払ってもらえない母子家庭の割合がかなり多いことが分かります。
 そこで、今回は、家庭裁判所の調停や審判(裁判の一種です)で養育費を取り決めた後、相手方が養育費を支払わない場合に何ができるのかについて書かせていただきます。

◆履行勧告
 支払う義務を負う者が、家庭裁判所で決めた調停や審判などの取決めを守らない場合、家庭裁判所に対して履行勧告の申出をすることで、家庭裁判所が相手方に取決めを守るように説得したり、勧告したりしてくれます。
 この履行勧告の手続に費用はかかりません。
 ただし、支払う義務を負う者が勧告に応じない場合に支払を強制することまではできません。

【家庭裁判所による手続説明】
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_05/index.html

◆履行命令
 支払う義務を負う者が、家庭裁判所で決めた調停や審判などの取決めを守らない場合、家庭裁判所に履行命令を申し立てることができます(相手が正当な理由なく履行命令に従わないときは、過料の制裁に処せられることがあります)。
 この手続にも費用はかかりません。
 ただし、相手方が履行命令に応じない場合に、履行命令の手続の中で相手方の財産を差し押さえるなどして強制的に養育費の支払をさせることまではできません。

◆財産開示手続
 調停や審判などの裁判所の手続を利用した方、公正証書を作成した方(ただし、公正証書や条件が付けられた調停調書には執行文を付与する必要があります)が使える制度となります。
 具体的には、裁判所に、支払い義務を負う者を呼び出し、財産について開示させる制度となります。
 この制度は以前からありましたが、令和2年の民事執行法改正により罰則が強化され、呼び出しを受けた者が出頭しなかった場合、出頭しても宣誓を拒んだ場合や虚偽の陳述をした場合には6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
 ただし、例えば、相手方が嘘の陳述をしていたとしても、その嘘を見抜き証明することは難しいですので、財産開示手続の実効性がどの程度あるのかはやや疑問が残るところです。

◆第三者からの情報取得
 調停や審判などの裁判所の手続を利用した方、公正証書を作成した方(ただし、公正証書や条件が付けられた調停調書には執行文を付与する必要があります)が、このほかに使える制度としては、

① 給与債権情報取得(市町村または日本年金機構に裁判所が勤務先の情報提供を命令する)
② 不動産情報取得(登記所に裁判所が不動産情報の情報提供を命令する)
③ 預貯金債権情報取得(銀行等の金融機関に裁判所が預貯金等の情報提供を命令する)
④ 振替社債等情報取得(証券会社等に裁判所が株式等の情報提供を命令する)

 があります。

 これらはいずれも令和2年4月1日から新しく施行された制度になります。
 それぞれどういった手続なのか、詳細についてはこちらの裁判所のサイトを確認いただければと思いますが、やや難しい部分もありますので、悩んだときには、お一人で抱え込まれず、一度、弁護士に相談されることをおすすめいたします。

【裁判所 養育費に関する手続】
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/youikuhi-tetsuzuki/index.html#Q&A2-1

【離婚】別居中の児童手当の受給権者について2023年06月26日 17:04

【離婚】別居中の児童手当の受給権者について

 今年、政府は「異次元の少子化対策」を掲げ、「こども・子育て支援加速化プラン」を令和6年度から3年に掛け、集中的に取り組むと発表しました。
 その中には、「児童手当」について、高校卒業まで延長する(現在は中学校卒業まで)、所得制限を撤廃する、多子世帯へ増額するといったものも含まれ、令和5年6月までに具体的内容を確定するとされています。
  
 このように「児童手当」は子育てをする上で、非常に重要な「収入源」であるため、政府としても、子育て支援策として力を入れ、より手厚くしようとしています。

 離婚を前提として子どもを連れ別居をしようとする方にとっても、「児童手当」の受給の有無はとても関心の高いところです。
現に、離婚の法律相談に来られる方の中には「児童手当が夫の口座に入っているのを、私に変更できませんか?」と質問される方が一定数いらっしゃいます。

 これは、夫婦の場合「児童手当」を受給できるのは所得の高い方(生計を維持する程度が高い人と定められています)になるため、夫が受給権者になることが多いことからの質問になります。

 しかし、平成24年4月に児童手当が制度変更され、「別居中の両親が生計を同じくしていないような場合(離婚または離婚協議中につき別居している場合)については、同居している人が児童を養育していると考えられることから、児童と同居している人に支給され」ることになりました(厚生労働省「児童手当Q&A Q7より」)。

 そのため、例えば、離婚協議を申し入れる内容の内容証明郵便の謄本、離婚の調停期日呼出状(家庭裁判所から送られてきます)、家庭裁判所における事件係属証明書、弁護士の証明書などで離婚協議中であることが明かな書類を市区町村へ提出し、「児童手当」の認定請求を行えば、児童と住所が同じ親が「児童手当」を受給することができるようになっています。

 この制度変更は、先程述べましたとおり、平成24年4月になされていますから、変更されて既に10年以上経過します。しかし、未だに役所の窓口の方が知らず、「できません」と断られたということもあるようですから、注意が必要です。