【犯罪被害者】性犯罪関係の法改正③ ~公訴時効の延長・性的姿態等撮影罪の新設~2023年10月12日 10:50

【犯罪被害者】性犯罪関係の法改正③ ~公訴時効の延長・性的姿態等撮影罪の新設~

令和5年(2023年)6月16日、刑法を含む、性犯罪関係の法律の大幅な改正法が成立し、その大部分の規定が同年7月13日から施行されました(※施行とは、法律の効力が生じている状態といった意味合いです)。
 
 今回は、「公訴時効期間の延長」と新たに新設された「性的姿態等撮影罪」についてお話をさせていただきます。

◆公訴時効期間の延長

 まず、「公訴時効」とは何か?という点ですが、犯罪事実があったとしても、法律の定める期間が経過すれば、犯人を処罰することができなく期間を指します。
 したがって、例えば、強制わいせつ罪(現在の不同意わいせつ罪)の公訴時効期間は、7年とされていましたので、強制わいせつの犯人が7年間逃げ切れば、公訴時効が経過してしまっているため、処罰されることはありませんでした。

 しかし、性犯罪は、被害者であるのに「恥ずかしい」という感情を抱いてしまったり、「あんな時間に出歩いていた自分が悪い」など自分が悪いと責めてしまうことがあり、なかなか警察や弁護士などに被害を訴えることができなかったり、交通事故で怪我を負う場合とは異なり、周囲から見ても被害者が被害を受けたことに気がつくにくいといった特性があることから、実際の被害から被害申告までに時間が掛かるケースが多く見られました。
 その結果、被害者が被害を訴えることができるようになったときには、既に公訴時効が完成しており、犯人を処罰することができないという、不当で理不尽な事態が生じていました。

 そこで、こうした事態を解消するため、今回の改正法では、性犯罪について公訴時効の期間を5年延長することとされました。
 具体的には
 不同意わいせつ等致傷罪、強盗・不同意性交等罪などは15年から20年へ
 不同意性交等罪、監護者性交等罪は10年から15年へ
 不同意わいせつ、監護者わいせつ罪などは7年から12年へ

 また、この期間に加えて、被害者が18歳未満である場合には、被害者が18歳に達する日までの期間を足した期間が公訴時効期間となるとされました。

 したがって、例えば、12歳のときに不同意性交等罪の被害に遭った場合、公訴時効期間が完成してしまうのは、33歳(18歳になるまでの6年間+15年)となります(この場合、33歳の誕生日の前日までになります)。

◆性的姿態等撮影罪(正確には、性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律第2条)の新設

 性的姿態等撮影罪は、以下のとおり定められています。

第二章 性的な姿態を撮影する行為等の処罰
(性的姿態等撮影)
第二条 次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
一 正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(以下「性的姿態等」という。)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(以下「対象性的姿態等」という。)を撮影する行為
イ 人の性的な部位(性器若しくは校門若しくはこれらの周辺部、臀部部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
ロ イに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等(刑法(明治四十年法律第四十五号)第百七十七条第一項に規定する性交等をいう。)がされている間における人の姿態
二 刑法第百七十六条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
三 行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
四 正当な理由がないのに、十三歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影し、又は十三歳以上十六歳未満の者を対象として、当該者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者が、その性的姿態等を撮影する行為
2 前項の罪の未遂は、罰する。
3 前二項の規定は、刑法第百七十六条及び第百七十九条第一項の規定の適用を妨げない。

 そのため、例えば、「盗撮行為」については、今までは各都道府県で定められた迷惑防止条例違反等で処罰がされてきましたが、今後は、性的姿態等撮影罪でも処罰することが可能となり、3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
 なお、16歳未満の子どもの性的な部位を撮影した場合には、仮に同意があったとしてもこの犯罪が成立しうることになります(ただし、親が子どもの成長記録としておむつ姿で水遊びをしている様子を撮影する場合や相撲大会でまわしのみで相撲を取っている状況を撮影する場合といった「正当な理由」がある場合は別とされています)。また13歳以上16歳未満の子どもが被害者の場合には、加害者が5歳以上年長である場合に限られます。

※ 先程あげた条文では「拘禁刑」と規定されていますが、令和5年8月時点では、刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号)が施行されていないため、「懲役」と読み替えることになります。

【犯罪被害者】性犯罪関係の法改正② ~16歳未満の者に対する面会要求等の罪の新設~2023年08月22日 11:14

【犯罪被害者】性犯罪関係の法改正② ~16歳未満の者に対する面会要求等の罪の新設~
 令和5年(2023年)6月16日、刑法を含む、性犯罪関係の法律の大幅な改正法が成立し、その大部分の規定が同年7月13日から施行されました(※施行とは、法律の効力が生じている状態といった意味合いです)。
 
 今回は、新たに新設された「16歳未満の者に対する面会要求等の罪」についてお話をさせていただきます。

 改正後の刑法182条には、以下の規定が新設されました。

(十六歳未満の者に対する面会要求等)
第百八十二条 わいせつの目的で、十六歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
一 威迫し、偽計を用い又は誘惑して面会を要求すること。
二 拒まれたにもかかわらず、反復して面会を要求すること。
三 金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をして面会を要求すること。
2 前項の罪を犯し、よってわいせつの目的で当該十六歳未満の者と面会をした者は、二年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
3 十六歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為(第二号に掲げる行為については、当該行為をさせることがわいせつなものであるものに限る。)を要求した者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
一 性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信すること。
二 前号に掲げるもののほか、膣又は肛門に身体の一部(陰茎を除く。)又は物を挿入し又は挿入される姿態、性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部をいう。以下この号において同じ。)を触り又は触られる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態をとってその映像を送信すること。

 そのため、例えば、16歳未満の子どもに対し、わいせつ目的で、断られているのに何度も繰り返し会う事を要求した場合、16歳未満の子どもに対し、わいせつ目的で援助交際の約束で会う事を求めた場合などには、16歳未満の者に対する面会要求等の罪に当たることになり、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が処せられることになります(ただし、13歳以上16歳未満の子どもが被害者の場合には、加害者が5歳以上年長である場合に限られます)。
 また、わいせつ目的で会うことを要求し、実際に会う場合には、2年以下の懲役または100万円以下の罰金と刑罰が重くされています。

 なお、このほかにも性交等をする姿、性的な部位を露出した姿などの写真や動画を撮影して送るよう要求することも、刑法182条3項により処罰の対象とされており、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が処せられます。

 これらの規定が新設された趣旨についてですが、法務省のQ&Aでは、「16歳未満の人は、性的行為に関する自由な意思決定の前提となる能力に欠けるため、性犯罪の被害に遭う危険性が高いといえます。そこで、16歳未満の人が性被害に遭うのを防止するため、実際の性犯罪に至る前の段階であっても、性被害に遭う危険性のない保護された状態を侵害する危険を生じさせたり、これを現に侵害する行為を新たに処罰することとされました」と説明されています。
 犯罪被害者支援の場面において、性犯罪や性暴力の被害者が16歳未満の子どもである事例は決して珍しいものではありません。
 新設された、この「16歳未満の者に対する面会要求等の罪」によって、こうした被害が少しでも減る事を祈っております。

※ なお、先程あげた刑法182条には「拘禁刑」と規定されていますが、令和5年7月時点では、刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号)が施行されていないため、「懲役」と読み替えることになります。

【犯罪被害者】性犯罪関係の法改正① ~強姦罪から強制性交等罪、そして不同意性交等罪へ~2023年07月24日 09:10

【犯罪被害者】性犯罪関係の法改正① ~強姦罪から強制性交等罪、そして不同意性交等罪へ~

 令和5年(2023年)6月16日、刑法を含む、性犯罪関係の法律の大幅な改正法が成立し、その大部分の規定が同年7月13日から施行されました(※施行とは、法律の効力が生じている状態といった意味合いです)。
 そこで、今回は、性犯罪関係の法改正の内容について3回に分けてお話させていただきます。

 平成29年(2017年)に改正される前の刑法には、「強姦罪」という規定があり、「暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、三年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。」と規定されていました。
 しかし、この規定だけでは処罰する事のできない性暴力も多く存在し、処罰範囲を拡げる必要があったことから、平成29年(2017年)の法改正に 
よって、強姦罪は強制性交等罪へと変更され、例えば、性交ではない、性交類似行為も処罰の対象となったり、法定刑も3年以上から5年以上へと引き上げられました。

 ところが、実際におきている性暴力を見てみますと、この強制性交等罪でも被害者救済としては不十分な現実があり、刑法の性犯罪の規定は実際の性暴力の実態を反映していないとの指摘や批判がなされておりました。

 そこで、こうした背景もあり、かねてより性犯罪関係のさらなる法改正に向けての議論が進められていたところ、上述の通り、令和5年(2023年)6月16日に刑法を含む、性犯罪関係の法律の大幅な改正法が成立し、一部を除く、大部分の規定が同年7月13日から施行されました。

 そこで、今回は、標題の通り、強姦罪から強制性交等罪、そして不同意性交等罪へと法改正がなされた点に絞ってお話をさせていただきます。
 まず、今回改正された不同意性交等罪は、以下のように規定されております。

 (不同意性交等)
第百七十七条 前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに 
 類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全 
 うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、
 肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若
 しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百
 七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有
 無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする
 者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしているこ
 とに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。
3 十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十
 三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前
 の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

 そのため、刑法176条1項各号に定められた以下のいずれかの原因によって、性交等(性交等には、性交、肛門性交、口腔性交のほか、膣や肛門に、陰茎以外の身体の一部または物を挿入する行為も含まれており、この点でも改正されています)をした場合に、不同意性交等罪が成立することになります。

一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があるこ
 と。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあ
 ること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利 
 益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。

 また、改正後の177条2項により、わいせつな行為でないと誤信させたり、人違いをさせること、または相手がそのような誤信をしていることに乗じて性交等(性交等には、性交、肛門性交、口腔性交のほか、膣や肛門に、陰茎以外の身体の一部または物を挿入する行為も含まれており、この点でも改正されています)をした場合にも、不同意性交等罪が成立することになります。

 そして、改正前の強制性交等罪では、13歳未満の乳幼児や児童といった子どもに対し性交等をした場合、その者の同意の有無に関わらず強制性交等罪が成立するとされていましたが、今回の法改正により、13歳未満の子どもに加え、13歳以上16歳未満(多くの場合、中学生)の子どもで、加害者が5歳以上年長である場合にも、その者の同意の有無に関わらず不同意性交等罪が成立することになりました。

※ なお、先程あげた刑法182条には「拘禁刑」と規定されていますが、令和5年7月時点では、刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号)が施行されていないため、「懲役」と読み替えることになります。

【2020年4月 民法改正】保証に関する民法の規定の改正~個人の根保証契約~2020年01月15日 17:33

青森県八戸~種差海岸~
【2020年4月 民法改正】保証に関する民法の規定の改正~個人の根保証契約~

1.保証契約とは


  お金を借りるとき,部屋を借りるとき,相手方から「保証人が必要です。」と言われた経験のある方がいらっしゃると思います。

  保証人とは,お金を借りた人,部屋を借りて家賃を払わなければならない人などの債務を負う人(法律上,「主債務者(しゅさいむしゃ)」といいます。)に代わって債務の支払義務を負う人をいいます。

  保証契約は,お金を貸した人や家賃を請求する大家さんといった「債権者」と「保証人」との間で締結されます。

  また,「連帯保証人」と「保証人」とでは,責任の重さが異なります。

  「連帯保証人」の場合,主債務者に財産があるかどうかに関係無く,債権者から「支払え」と請求された場合,支払う義務を負いますし,債権者が主債務者ではなく,先に連帯保証人に支払うよう求めてきても,「先に借りた人間に請求してください」ということ(法律上,「催告の抗弁(さいこくのこうべん)」といいます。)もできません。

  そのため,連帯保証人の責任は,主債務者の責任とほぼ同等と考えて差し支えありません。


2.保証契約の危険性(リスク)


  「絶対,迷惑は掛けないから」ですとか,「名前だけ貸して欲しい」と言われ,断れず保証人あるいは連帯保証人になってしまったというお話を耳にすることがあります。

  しかし,上述しましたとおり,保証人の責任は大変重いものです。
  
  保証人や連帯保証人になるということは,自分が借りてもいない借金の返済義務を負うということですので,安易に保証人や連帯保証人にならないよう注意する必要があります。


3.2020年4月1日以降,部屋を借りる際などの上限額の定めがない保証契約は無効となります


 上述のとおり,保証契約は非常にリスクの高い契約となります。

 そのため,保証契約に関する民法の規定は,今まで保証人を守るために何度か改正されてきた経緯があります
  注: 例えば,2005年4月1日には,主債務に貸金(及び手形の割引   を受けることによって負担する債務)が含まれる根保証契約につい   ては,今回の改正より更に厳しい内容で改正されています。

  そして,今回,新たに貸金等以外についても「上限額の定めのない個人の根保証契約は無効」という規定ができました。

  貸金以外の「上限額の定めのない個人の根保証契約」の身近な例としては,例えば,部屋を借りる際,家賃の支払いについて支払額の上限無しに保証するケース,家族が老人ホームや病院に入所する際,施設や病院から支払額の上限なしに支払保証させられるケースが挙げられ,『保証人になった時点で,最終的に幾らの支払いを保証することになるのかが分からない契約』といった内容の保証契約を指します。

  したがって,2020年4月1日以降は,個人(注:会社などの法人は含まれません)が保証人になる根保証契約は,例えば「50万円」というような確定的な金額で「極度額」=責任の限度額を定めなければ,保証契約は無効となります。

 また,保証契約は「書面(または電磁的記録)」が必要とされますので,「保証契約書」を作成する必要もあります。
 
 なお,個人が保証人になる根保証契約については,保証人が自己破産したとき,主債務者または保証人が亡くなったときは,その時点で極度額に満たない場合であっても,保証する金額(法律上,「元本(がんぽん)」といいます)は確定することにもなりました。