【交通事故】 親族への名義貸し ― 2023年12月27日 15:19
【気になる交通事故裁判 1】
生活保護受給中の親族(「Aさん」といいます)に頼まれ、自動車の名義を貸した方(「Bさん」といいます)がいました。
BさんがAさんに名義を貸してから2年後、Aさんが人身事故(交通事故)を起こしてしまいました。
事故当時、AさんとBさんとの間は疎遠で、住まいも生活も別、Bさんは事故を起こした車がどこに保管されているのかも知りませんし、勿論、車の購入代金も車検代などの維持費も支払っていませんでした。
この状況において、名義を貸したBさんは、人身事故について賠償義務を負うのでしょうか?
自動車損害賠償保障法(「自賠法」といいます)3条では、以下のとおり定められており、この事件では、Bさんが「自己のために自動車を運行の用に供する者」(「運行供用者」といいます)に当たるのかが問題となりました。
(自動車損害賠償責任)
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
この事件は、最高裁まで争われ、1審では「Bさんは運行供用者にあたり責任を負う」と判断されました。
これに対し、第2審(高等裁判所)では、「Bさんは単なる名義貸与者にすぎず、自動車の運行を事実上支配、管理していたと認めることはできないとして、運行供用者にあたらず責任を負わない」と判断しました。
これを受け、最高裁は、以下の通り判断し、Bさんが運行供用者にあたらないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして原判決を破棄し、損害についてさらに審理を尽くさせるため、原審に差し戻しました。
『Bは、Aからの名義貸与の依頼を承諾して、本件自動車の名義上の所有者兼使用者となり、Aは、上記の承諾の下で所有していた本件自動車を運転して、本件事故を起こしたものである。Aは、当時、生活保護を受けており、事故の名義で本件自動車を所有すると生活保護を受けることができなくなるおそれがあると考え、本件自動車を購入するに際し、親族(※具体的な属性は割愛します)であるBに名義貸与を依頼したというのであり、BのAに対する名義貸与は、事実上困難であったAによる本件自動車の所有及び使用を可能にし、自動車の運転に伴う危険の発生に寄与するものといえる。また、BがAの依頼を拒むことができなかったなどの事情もうかがわれない。そうすると、・・・(略)BとAとが住居及び生計を別にしていたなどの事情があったとしても、Bは本件自動車の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にあったというべきである。したがって、Bは、本件自動車の運行について、運行供用者に当たる』
以上のように、最高裁は、名義を貸しただけのBさんにも人身事故の賠償義務を認めました。
生活保護を受給されている方の中には、今回のAさんと同様の手法で自動車を使用されている方がいるかもしれません。
しかし、今回のように、安易な名義貸しで莫大な損害賠償義務を負わされるBさんのようなケースもありますので、安易な名義貸しは絶対に止めましょう。
生活保護受給中の親族(「Aさん」といいます)に頼まれ、自動車の名義を貸した方(「Bさん」といいます)がいました。
BさんがAさんに名義を貸してから2年後、Aさんが人身事故(交通事故)を起こしてしまいました。
事故当時、AさんとBさんとの間は疎遠で、住まいも生活も別、Bさんは事故を起こした車がどこに保管されているのかも知りませんし、勿論、車の購入代金も車検代などの維持費も支払っていませんでした。
この状況において、名義を貸したBさんは、人身事故について賠償義務を負うのでしょうか?
自動車損害賠償保障法(「自賠法」といいます)3条では、以下のとおり定められており、この事件では、Bさんが「自己のために自動車を運行の用に供する者」(「運行供用者」といいます)に当たるのかが問題となりました。
(自動車損害賠償責任)
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
この事件は、最高裁まで争われ、1審では「Bさんは運行供用者にあたり責任を負う」と判断されました。
これに対し、第2審(高等裁判所)では、「Bさんは単なる名義貸与者にすぎず、自動車の運行を事実上支配、管理していたと認めることはできないとして、運行供用者にあたらず責任を負わない」と判断しました。
これを受け、最高裁は、以下の通り判断し、Bさんが運行供用者にあたらないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして原判決を破棄し、損害についてさらに審理を尽くさせるため、原審に差し戻しました。
『Bは、Aからの名義貸与の依頼を承諾して、本件自動車の名義上の所有者兼使用者となり、Aは、上記の承諾の下で所有していた本件自動車を運転して、本件事故を起こしたものである。Aは、当時、生活保護を受けており、事故の名義で本件自動車を所有すると生活保護を受けることができなくなるおそれがあると考え、本件自動車を購入するに際し、親族(※具体的な属性は割愛します)であるBに名義貸与を依頼したというのであり、BのAに対する名義貸与は、事実上困難であったAによる本件自動車の所有及び使用を可能にし、自動車の運転に伴う危険の発生に寄与するものといえる。また、BがAの依頼を拒むことができなかったなどの事情もうかがわれない。そうすると、・・・(略)BとAとが住居及び生計を別にしていたなどの事情があったとしても、Bは本件自動車の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にあったというべきである。したがって、Bは、本件自動車の運行について、運行供用者に当たる』
以上のように、最高裁は、名義を貸しただけのBさんにも人身事故の賠償義務を認めました。
生活保護を受給されている方の中には、今回のAさんと同様の手法で自動車を使用されている方がいるかもしれません。
しかし、今回のように、安易な名義貸しで莫大な損害賠償義務を負わされるBさんのようなケースもありますので、安易な名義貸しは絶対に止めましょう。
【離婚】不貞行為の慰謝料 ― 2023年07月10日 11:27
【離婚】不貞行為の慰謝料
離婚の話が夫婦間で出されるようになった場合、当たり前ではありますが、夫婦関係が円満にはいかなくなった事情があることが大勢です。
この場合、仮に夫婦のどちらか一方に原因があったとしても、慰謝料の支払義務が当然に生じるわけではありませんし、また、私自身の経験で申し上げれば、離婚のご相談の半数以上は慰謝料の支払い義務があるとまではいかない事案という印象が強いです。
もっとも、これは慰謝料の支払い義務が生じるであろうと思われるご相談もあり、その典型的な例が、夫婦の一方が不貞行為(一番分かりやすい例は、肉体関係のある不倫)をした場合です。
そこで、今回は、「家庭の法と裁判」という雑誌の2017年7月号から5回に亘って連載された、不貞行為慰謝料に関する裁判例の分析(大塚正之弁護士)での分析結果の一部より、「裁判において認められる慰謝料の額」を紹介させていただきます。
不貞行為慰謝料に関する裁判例の分析(大塚正之弁護士)では、平成27年10月から平成28年9月までの1年間に東京地方裁判所で言い渡された判決の中から、不貞行為慰謝料に関する裁判例123件が分析されています。
この分析結果で、まず目を引くのが、
◆ 原告の割合は妻が夫より2倍以上多い
◆ 被告については、不貞行為の相手方(いわゆる不倫相手)のみを訴えているのが全体の80%弱、これに不貞行為をした夫あるいは妻と不貞行為の相手方を一緒に訴えるパターンを加えると、90%以上が不貞行為の相手方(いわゆる不倫相手)を被告とするもの
という結果です。
また、請求額と裁判で認められた認容額についても分析がされており、
◆ 不貞行為の慰謝料として請求される額は多い順に300万円、500万円、400万円
◆ 一方で、最終的に裁判所が認めた不貞行為の慰謝料額は多い順に150~199万円、100~149万円、200~249万円、50~99万円
◆ 分析した裁判の70%が、裁判所に請求額の半分以下でしか不貞行為の慰謝料を認められていない
とのことでした。
先程述べましたように、この分析結果は平成27年10月から平成28年9月までの1年間に東京地方裁判所で言い渡された判決の中から、不貞行為慰謝料に関する裁判例123件をピックアップしたものですから、この分析は、今から7年前のものであり、全国的な統計結果でもありません。
しかし、感覚としては令和5年の現在も同様の傾向では無いかなと思われますし、少なくとも札幌の離婚裁判も原告と被告の割合や裁判所が最終的に認める不貞行為の慰謝料額としては似たような傾向なのではないかなと思われます(これに対し、請求額については、裁判を起こす場合、請求額が高くなればその分、裁判所に納める収入印紙の額も高額になるとったこともあり、200~300万円が札幌では多いような気が致します)。
離婚の話が夫婦間で出されるようになった場合、当たり前ではありますが、夫婦関係が円満にはいかなくなった事情があることが大勢です。
この場合、仮に夫婦のどちらか一方に原因があったとしても、慰謝料の支払義務が当然に生じるわけではありませんし、また、私自身の経験で申し上げれば、離婚のご相談の半数以上は慰謝料の支払い義務があるとまではいかない事案という印象が強いです。
もっとも、これは慰謝料の支払い義務が生じるであろうと思われるご相談もあり、その典型的な例が、夫婦の一方が不貞行為(一番分かりやすい例は、肉体関係のある不倫)をした場合です。
そこで、今回は、「家庭の法と裁判」という雑誌の2017年7月号から5回に亘って連載された、不貞行為慰謝料に関する裁判例の分析(大塚正之弁護士)での分析結果の一部より、「裁判において認められる慰謝料の額」を紹介させていただきます。
不貞行為慰謝料に関する裁判例の分析(大塚正之弁護士)では、平成27年10月から平成28年9月までの1年間に東京地方裁判所で言い渡された判決の中から、不貞行為慰謝料に関する裁判例123件が分析されています。
この分析結果で、まず目を引くのが、
◆ 原告の割合は妻が夫より2倍以上多い
◆ 被告については、不貞行為の相手方(いわゆる不倫相手)のみを訴えているのが全体の80%弱、これに不貞行為をした夫あるいは妻と不貞行為の相手方を一緒に訴えるパターンを加えると、90%以上が不貞行為の相手方(いわゆる不倫相手)を被告とするもの
という結果です。
また、請求額と裁判で認められた認容額についても分析がされており、
◆ 不貞行為の慰謝料として請求される額は多い順に300万円、500万円、400万円
◆ 一方で、最終的に裁判所が認めた不貞行為の慰謝料額は多い順に150~199万円、100~149万円、200~249万円、50~99万円
◆ 分析した裁判の70%が、裁判所に請求額の半分以下でしか不貞行為の慰謝料を認められていない
とのことでした。
先程述べましたように、この分析結果は平成27年10月から平成28年9月までの1年間に東京地方裁判所で言い渡された判決の中から、不貞行為慰謝料に関する裁判例123件をピックアップしたものですから、この分析は、今から7年前のものであり、全国的な統計結果でもありません。
しかし、感覚としては令和5年の現在も同様の傾向では無いかなと思われますし、少なくとも札幌の離婚裁判も原告と被告の割合や裁判所が最終的に認める不貞行為の慰謝料額としては似たような傾向なのではないかなと思われます(これに対し、請求額については、裁判を起こす場合、請求額が高くなればその分、裁判所に納める収入印紙の額も高額になるとったこともあり、200~300万円が札幌では多いような気が致します)。
【離婚】別居中の児童手当の受給権者について ― 2023年06月26日 17:04
【離婚】別居中の児童手当の受給権者について
今年、政府は「異次元の少子化対策」を掲げ、「こども・子育て支援加速化プラン」を令和6年度から3年に掛け、集中的に取り組むと発表しました。
その中には、「児童手当」について、高校卒業まで延長する(現在は中学校卒業まで)、所得制限を撤廃する、多子世帯へ増額するといったものも含まれ、令和5年6月までに具体的内容を確定するとされています。
このように「児童手当」は子育てをする上で、非常に重要な「収入源」であるため、政府としても、子育て支援策として力を入れ、より手厚くしようとしています。
離婚を前提として子どもを連れ別居をしようとする方にとっても、「児童手当」の受給の有無はとても関心の高いところです。
現に、離婚の法律相談に来られる方の中には「児童手当が夫の口座に入っているのを、私に変更できませんか?」と質問される方が一定数いらっしゃいます。
これは、夫婦の場合「児童手当」を受給できるのは所得の高い方(生計を維持する程度が高い人と定められています)になるため、夫が受給権者になることが多いことからの質問になります。
しかし、平成24年4月に児童手当が制度変更され、「別居中の両親が生計を同じくしていないような場合(離婚または離婚協議中につき別居している場合)については、同居している人が児童を養育していると考えられることから、児童と同居している人に支給され」ることになりました(厚生労働省「児童手当Q&A Q7より」)。
そのため、例えば、離婚協議を申し入れる内容の内容証明郵便の謄本、離婚の調停期日呼出状(家庭裁判所から送られてきます)、家庭裁判所における事件係属証明書、弁護士の証明書などで離婚協議中であることが明かな書類を市区町村へ提出し、「児童手当」の認定請求を行えば、児童と住所が同じ親が「児童手当」を受給することができるようになっています。
この制度変更は、先程述べましたとおり、平成24年4月になされていますから、変更されて既に10年以上経過します。しかし、未だに役所の窓口の方が知らず、「できません」と断られたということもあるようですから、注意が必要です。
今年、政府は「異次元の少子化対策」を掲げ、「こども・子育て支援加速化プラン」を令和6年度から3年に掛け、集中的に取り組むと発表しました。
その中には、「児童手当」について、高校卒業まで延長する(現在は中学校卒業まで)、所得制限を撤廃する、多子世帯へ増額するといったものも含まれ、令和5年6月までに具体的内容を確定するとされています。
このように「児童手当」は子育てをする上で、非常に重要な「収入源」であるため、政府としても、子育て支援策として力を入れ、より手厚くしようとしています。
離婚を前提として子どもを連れ別居をしようとする方にとっても、「児童手当」の受給の有無はとても関心の高いところです。
現に、離婚の法律相談に来られる方の中には「児童手当が夫の口座に入っているのを、私に変更できませんか?」と質問される方が一定数いらっしゃいます。
これは、夫婦の場合「児童手当」を受給できるのは所得の高い方(生計を維持する程度が高い人と定められています)になるため、夫が受給権者になることが多いことからの質問になります。
しかし、平成24年4月に児童手当が制度変更され、「別居中の両親が生計を同じくしていないような場合(離婚または離婚協議中につき別居している場合)については、同居している人が児童を養育していると考えられることから、児童と同居している人に支給され」ることになりました(厚生労働省「児童手当Q&A Q7より」)。
そのため、例えば、離婚協議を申し入れる内容の内容証明郵便の謄本、離婚の調停期日呼出状(家庭裁判所から送られてきます)、家庭裁判所における事件係属証明書、弁護士の証明書などで離婚協議中であることが明かな書類を市区町村へ提出し、「児童手当」の認定請求を行えば、児童と住所が同じ親が「児童手当」を受給することができるようになっています。
この制度変更は、先程述べましたとおり、平成24年4月になされていますから、変更されて既に10年以上経過します。しかし、未だに役所の窓口の方が知らず、「できません」と断られたということもあるようですから、注意が必要です。
【離婚】養育費を確保するために③ ~調停が成立したその後に~ ― 2023年06月09日 14:55
【離婚】養育費を確保するために③ ~調停が成立したその後に~
令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告(厚生労働省)によりますと、離婚時に養育費の取り決めをした母子世帯の割合は46.7%であるのに対し、離婚した父親からの養育費の受給状況として「現在も受けている」のは28.1%にとどまるとされています。
この調査結果からは、そもそも離婚時に養育費の取り決めがされている母子家庭の割合は半数未満と低い上、せっかく取り決めをしても養育費を支払ってもらえない母子家庭の割合がかなり多いことが分かります。
そこで、今回は、家庭裁判所の調停や審判(裁判の一種です)で養育費を取り決めた後、相手方が養育費を支払わない場合に何ができるのかについて書かせていただきます。
◆履行勧告
支払う義務を負う者が、家庭裁判所で決めた調停や審判などの取決めを守らない場合、家庭裁判所に対して履行勧告の申出をすることで、家庭裁判所が相手方に取決めを守るように説得したり、勧告したりしてくれます。
この履行勧告の手続に費用はかかりません。
ただし、支払う義務を負う者が勧告に応じない場合に支払を強制することまではできません。
【家庭裁判所による手続説明】
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_05/index.html
◆履行命令
支払う義務を負う者が、家庭裁判所で決めた調停や審判などの取決めを守らない場合、家庭裁判所に履行命令を申し立てることができます(相手が正当な理由なく履行命令に従わないときは、過料の制裁に処せられることがあります)。
この手続にも費用はかかりません。
ただし、相手方が履行命令に応じない場合に、履行命令の手続の中で相手方の財産を差し押さえるなどして強制的に養育費の支払をさせることまではできません。
◆財産開示手続
調停や審判などの裁判所の手続を利用した方、公正証書を作成した方(ただし、公正証書や条件が付けられた調停調書には執行文を付与する必要があります)が使える制度となります。
具体的には、裁判所に、支払い義務を負う者を呼び出し、財産について開示させる制度となります。
この制度は以前からありましたが、令和2年の民事執行法改正により罰則が強化され、呼び出しを受けた者が出頭しなかった場合、出頭しても宣誓を拒んだ場合や虚偽の陳述をした場合には6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
ただし、例えば、相手方が嘘の陳述をしていたとしても、その嘘を見抜き証明することは難しいですので、財産開示手続の実効性がどの程度あるのかはやや疑問が残るところです。
◆第三者からの情報取得
調停や審判などの裁判所の手続を利用した方、公正証書を作成した方(ただし、公正証書や条件が付けられた調停調書には執行文を付与する必要があります)が、このほかに使える制度としては、
① 給与債権情報取得(市町村または日本年金機構に裁判所が勤務先の情報提供を命令する)
② 不動産情報取得(登記所に裁判所が不動産情報の情報提供を命令する)
③ 預貯金債権情報取得(銀行等の金融機関に裁判所が預貯金等の情報提供を命令する)
④ 振替社債等情報取得(証券会社等に裁判所が株式等の情報提供を命令する)
があります。
これらはいずれも令和2年4月1日から新しく施行された制度になります。
それぞれどういった手続なのか、詳細についてはこちらの裁判所のサイトを確認いただければと思いますが、やや難しい部分もありますので、悩んだときには、お一人で抱え込まれず、一度、弁護士に相談されることをおすすめいたします。
【裁判所 養育費に関する手続】
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/youikuhi-tetsuzuki/index.html#Q&A2-1
令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告(厚生労働省)によりますと、離婚時に養育費の取り決めをした母子世帯の割合は46.7%であるのに対し、離婚した父親からの養育費の受給状況として「現在も受けている」のは28.1%にとどまるとされています。
この調査結果からは、そもそも離婚時に養育費の取り決めがされている母子家庭の割合は半数未満と低い上、せっかく取り決めをしても養育費を支払ってもらえない母子家庭の割合がかなり多いことが分かります。
そこで、今回は、家庭裁判所の調停や審判(裁判の一種です)で養育費を取り決めた後、相手方が養育費を支払わない場合に何ができるのかについて書かせていただきます。
◆履行勧告
支払う義務を負う者が、家庭裁判所で決めた調停や審判などの取決めを守らない場合、家庭裁判所に対して履行勧告の申出をすることで、家庭裁判所が相手方に取決めを守るように説得したり、勧告したりしてくれます。
この履行勧告の手続に費用はかかりません。
ただし、支払う義務を負う者が勧告に応じない場合に支払を強制することまではできません。
【家庭裁判所による手続説明】
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_05/index.html
◆履行命令
支払う義務を負う者が、家庭裁判所で決めた調停や審判などの取決めを守らない場合、家庭裁判所に履行命令を申し立てることができます(相手が正当な理由なく履行命令に従わないときは、過料の制裁に処せられることがあります)。
この手続にも費用はかかりません。
ただし、相手方が履行命令に応じない場合に、履行命令の手続の中で相手方の財産を差し押さえるなどして強制的に養育費の支払をさせることまではできません。
◆財産開示手続
調停や審判などの裁判所の手続を利用した方、公正証書を作成した方(ただし、公正証書や条件が付けられた調停調書には執行文を付与する必要があります)が使える制度となります。
具体的には、裁判所に、支払い義務を負う者を呼び出し、財産について開示させる制度となります。
この制度は以前からありましたが、令和2年の民事執行法改正により罰則が強化され、呼び出しを受けた者が出頭しなかった場合、出頭しても宣誓を拒んだ場合や虚偽の陳述をした場合には6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
ただし、例えば、相手方が嘘の陳述をしていたとしても、その嘘を見抜き証明することは難しいですので、財産開示手続の実効性がどの程度あるのかはやや疑問が残るところです。
◆第三者からの情報取得
調停や審判などの裁判所の手続を利用した方、公正証書を作成した方(ただし、公正証書や条件が付けられた調停調書には執行文を付与する必要があります)が、このほかに使える制度としては、
① 給与債権情報取得(市町村または日本年金機構に裁判所が勤務先の情報提供を命令する)
② 不動産情報取得(登記所に裁判所が不動産情報の情報提供を命令する)
③ 預貯金債権情報取得(銀行等の金融機関に裁判所が預貯金等の情報提供を命令する)
④ 振替社債等情報取得(証券会社等に裁判所が株式等の情報提供を命令する)
があります。
これらはいずれも令和2年4月1日から新しく施行された制度になります。
それぞれどういった手続なのか、詳細についてはこちらの裁判所のサイトを確認いただければと思いますが、やや難しい部分もありますので、悩んだときには、お一人で抱え込まれず、一度、弁護士に相談されることをおすすめいたします。
【裁判所 養育費に関する手続】
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/youikuhi-tetsuzuki/index.html#Q&A2-1
【相続】身近になった自筆の遺言書 ― 2021年02月10日 10:48
令和2年(2020年)7月より、自筆の遺言書(正確には「自筆証書遺言」といいます。)の作成方法、保管場所、家庭裁判所での手続きなどが、より身近なものへと大きく変わりました。
1.自筆の遺言書の作成方法
従来、自筆で遺言書を作成する場合には、全ての文章(全文)、日付及び氏名を遺言をする方が自署する必要がありました。
今回、改正された内容では、平成31年(2019年)1月13日以後に作成された自筆の遺言書の「財産目録」については、自筆公正証書と一体のものとして添付されている場合、パソコンなどで作成した「財産目録」でもよいとされました(民法968条2項)。
もっとも、「この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。」とされていますので、印刷した「財産目録」への署名・押印は必要になりますので注意が必要です。
また、このように手書きが原則であって、ワープロを使うことができるのは財産目録だけという点にも注意が必要です。
2.保管場所
今まで自筆の遺言書については、登録システムのようなものは存在しませんでしたので、遺言をされた方がどこにあるなど言い残していなければ、相続人の方々は家捜しするほかありませんでした。
こうした不都合を改めるため、平成30年法律第72号による民法改正で、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が新たに創設されました。
この制度は、遺言者が法務局に自筆の遺言書の原本を持参し、手数料を支払って申請すれば、法務局で遺言書の原本とともに、遺言書を画像情報化して保存してくれるというものです。
また、保管は法務局の遺言書保管官が行うことになっているため、あくまで事実上ではありますが、遺言書の形式についてはある程度、この段階でチェックしてもらえるでしょうから、形式的不備を防ぐことが期待されると思われます。
なお、この制度の詳しい内容につきましては、法務局の案内をご参照ください。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html
3.遺言書の検認
自筆での遺言書については、保管者、あるいは発見した人が家庭裁判所に検認に申立をしなければならないとされており、手間暇ともに掛かるのが実情でした。
民法 第千四条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
そこで、この点についても改正がなされ、法務局で保管された自筆の遺言書については、家庭裁判所の検認は不要とされました。
なお、家庭裁判所の検認とは、遺言の有効、無効を判断するものではありません。
あくまで相続人に対し、残された遺言書の状態を確認させるための手続きです。
しかし、民法上、遺言の保管者、あるいは発見した相続人については、検認をすることが義務づけられており、これを怠った場合には、以下のとおり5万円以下の過料に処されるとされているので注意が必要です。
(過料)
第千五条 前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。
4.その後~相続が発生したら
相続が発生した後には、不動産の登記や預貯金の名義書換などのために「遺言書情報証明書」の交付要求を相続人の方が行うことになります(注:義務ではありません)。
なお、「遺言書情報証明書」の交付要求、あるいは遺言書の閲覧請求を受けた法務局は速やかに遺言書を保管していることを遺言者の他の相続人、受遺者(財産を遺贈するとされた方)、遺言執行者に通知することになっているようです。
1.自筆の遺言書の作成方法
従来、自筆で遺言書を作成する場合には、全ての文章(全文)、日付及び氏名を遺言をする方が自署する必要がありました。
今回、改正された内容では、平成31年(2019年)1月13日以後に作成された自筆の遺言書の「財産目録」については、自筆公正証書と一体のものとして添付されている場合、パソコンなどで作成した「財産目録」でもよいとされました(民法968条2項)。
もっとも、「この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。」とされていますので、印刷した「財産目録」への署名・押印は必要になりますので注意が必要です。
また、このように手書きが原則であって、ワープロを使うことができるのは財産目録だけという点にも注意が必要です。
2.保管場所
今まで自筆の遺言書については、登録システムのようなものは存在しませんでしたので、遺言をされた方がどこにあるなど言い残していなければ、相続人の方々は家捜しするほかありませんでした。
こうした不都合を改めるため、平成30年法律第72号による民法改正で、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が新たに創設されました。
この制度は、遺言者が法務局に自筆の遺言書の原本を持参し、手数料を支払って申請すれば、法務局で遺言書の原本とともに、遺言書を画像情報化して保存してくれるというものです。
また、保管は法務局の遺言書保管官が行うことになっているため、あくまで事実上ではありますが、遺言書の形式についてはある程度、この段階でチェックしてもらえるでしょうから、形式的不備を防ぐことが期待されると思われます。
なお、この制度の詳しい内容につきましては、法務局の案内をご参照ください。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html
3.遺言書の検認
自筆での遺言書については、保管者、あるいは発見した人が家庭裁判所に検認に申立をしなければならないとされており、手間暇ともに掛かるのが実情でした。
民法 第千四条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
そこで、この点についても改正がなされ、法務局で保管された自筆の遺言書については、家庭裁判所の検認は不要とされました。
なお、家庭裁判所の検認とは、遺言の有効、無効を判断するものではありません。
あくまで相続人に対し、残された遺言書の状態を確認させるための手続きです。
しかし、民法上、遺言の保管者、あるいは発見した相続人については、検認をすることが義務づけられており、これを怠った場合には、以下のとおり5万円以下の過料に処されるとされているので注意が必要です。
(過料)
第千五条 前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。
4.その後~相続が発生したら
相続が発生した後には、不動産の登記や預貯金の名義書換などのために「遺言書情報証明書」の交付要求を相続人の方が行うことになります(注:義務ではありません)。
なお、「遺言書情報証明書」の交付要求、あるいは遺言書の閲覧請求を受けた法務局は速やかに遺言書を保管していることを遺言者の他の相続人、受遺者(財産を遺贈するとされた方)、遺言執行者に通知することになっているようです。
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