【震災法律相談】地震時の法律問題① 〜水漏れトラブル〜2018年10月25日 17:15

1.地震時の法律問題

今年は,7月に発生した西日本集中豪雨や,台風,そして9月6日に発生した北海道胆振東部地震と天災が相次いでいます。
私が所属する札幌弁護士会も,北海道胆振東部地震発生後,地震発生から時を経ずして,被害の大きかった地域へ弁護士を派遣しており,現在も継続した法律相談を実施しています。
また,私自身も,札幌での地震関連での面談,電話での法律相談のほか,厚真町,むかわ町などにも出向き,法律相談を担当させていただいております。

そこで,こうした法律相談の経験などを踏まえ,地震に伴い多く見られる法律問題について,何回かに分けて書かせていただこうと思います。

2.分譲マンションの水漏れトラブル

【相談事例】

地震によって水道管が破裂し,下の階に水漏れしてしまいました。今回のような大きな地震であっても,下の階の人に生じた損害の賠償をしなければならないのでしょうか?

【回答例】

まず,例えば,水道管が老朽化しており,交換しなければいつ水漏れしてもおかしくない状態であることを分かっていながら放置していたような場合には,故意または過失による不法行為責任(民法709条)により,上の階の住民の方は,下の階の被害者に対し,損害賠償責任を負う可能性が高いといえます。

これに対し,大きな地震によって,予期せず水道管が破裂したような場合には,民法717条第1項の土地工作物責任が認められるかが問題になってきます。

なお,建物内の水道管や排水管が工作物に当たるのか否かについては,実は裁判例は分かれています。そのため,以下は,建物内の水道管や排水管が工作物に当たることを前提とした場合を想定し,回答を進めさせていただきます。

土地の工作物に瑕疵があった場合,その所有者は,たとえその工作物の設置や保存について何らの過失が無かったとしても,設置や保存に瑕疵があったことによって被害を被った被害者に損害賠償をする責任があります(これを「土地工作物責任」といいます)。

したがって,たとえ地震といった天災をきっかけにしても,分譲マンションの専有部分から水漏れが発生した場合には,区分所有者である分譲マンションの所有者が責任を負うのが基本となります。

もっとも,従来,これには例外があるとされており,震度6以上の地震であった場合には,不可抗力に基づくものとして所有者は損害賠償責任を免れると考えられてきました。

ところが,阪神淡路大震災において,震度7の地域に存在した賃貸マンションの一階部分が倒壊し,一階部分の賃借人が死亡した事故では,マンションの設置の瑕疵が認められ賃貸人・所有者の土地工作物責任が肯定されています(神戸地裁平成11年9月20日判決,ただし,自然力の寄与度を5割認め,責任の割合は損害の5割とされています)。

また,首都圏でも最大震度6強,東京23区内においても震度5強が観測された東日本大震災においても,住戸内の電気温水器の配管が断裂・漏水したため,階下の原告(賃借人)所有のコンピュータ等が故障し,業務に支障が来したとして,被告会社(住戸の管理会社)及び被告ら(住戸の区分所有者2名)に対し,損害賠償を求めた裁判では,首都圏で震度6強の地震が発生し得ることは想定されていたとして,土地の工作物の所有者(住戸の区分所有者2名)は過失がなくとも工作物責任を負うとして,所有者に損害賠償を認めた裁判例も出ています(東京地裁平成25年2月12日判決)。

したがって,震度6強の地震が頻発している現状から,震度6以上の地震であっても,不可抗力とはいえず,所有者に土地工作物責任がある場合も大いにあり得るため,問題となっている水道管が,その当時発生することが予想された地震動に耐えうる安全性を有していたか否か,個別具体的に検討する必要があると思われます。

よって,今回の相談に対しては,
『大きな地震によって,予期せず水道管が破裂したような場合であっても,分譲マンションの専有部分から水漏れが発生した場合には,区分所有者である分譲マンションの所有者が責任を負う可能性が高い。ただし,個別具体的に事情によっては,不可抗力により責任を免れる可能性があるし,責任を負うとされても,責任の割合が減少する可能性がある。』
という回答になるのではないかと考えます。

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